重症複合免疫不全症(SCID:Severe Combined Immunodeficiency)は、遺伝性の免疫不全症の一つで、生まれつき免疫システムがほとんど機能しない重篤な疾患です。SCIDの患者は、細菌、ウイルス、真菌などの感染に対して極めて脆弱であり、適切な治療を受けなければ生後1年以内に命を落とすことが多いです。
原因
SCIDは複数の遺伝子の異常によって引き起こされます。代表的なものには、以下の遺伝子の変異があります:
- IL2RG遺伝子:X連鎖型SCIDの原因となり、最も一般的です。男性に多く見られます。
- ADA遺伝子:アデノシンデアミナーゼ欠損症によるSCID。
- RAG1/RAG2遺伝子:V(D)J組換えの異常によるSCID。
これらの遺伝子変異は、T細胞、B細胞、NK細胞といった免疫細胞の発生や機能に影響を与えます。
症状
SCIDの症状は、免疫不全の程度や感染の種類によって異なります。一般的な症状には以下があります:
- 繰り返す重度の感染症(肺炎、耳感染、下痢など)
- 体重増加不良
- 皮膚感染やカンジダ症
- 慢性的な咳や呼吸困難
診断
SCIDの診断は、新生児スクリーニングや感染症の頻度と重症度に基づきます。診断には以下の検査が用いられます:
- 血液検査:T細胞、B細胞、NK細胞の数を測定。
- 遺伝子検査:SCIDの原因となる遺伝子変異の特定。
- 免疫機能検査:抗体の生成能力やリンパ球の反応性を評価。
治療
SCIDの治療には、以下の方法が含まれます:
- 骨髄移植(造血幹細胞移植):最も効果的な治療法で、健康なドナーからの幹細胞移植により患者の免疫システムを再構築します。
- 遺伝子治療:特定の遺伝子変異に対する治療が進行中です。
- 酵素補充療法:ADA欠損症の患者に対する治療法。
- 感染症予防:無菌環境の維持や予防的抗生物質の投与。
予後
適切な治療を受けた場合、SCIDの予後は大きく改善されます。特に早期に骨髄移植を受けた場合、生存率は高くなります。しかし、治療を受けない場合、重度の感染症によって生後1年以内に死亡するリスクが非常に高いです。
まとめ
重症複合免疫不全症は、早期発見と治療が重要な疾患です。新生児スクリーニングによる早期診断と、適切な治療法の選択により、多くの患者が健康な生活を送ることが可能です。SCIDの研究と治療の進展は、今後さらに多くの命を救うことが期待されています。